【547】トケイソウによせて

路上Watchingと称して町を歩きながら、よそ様のお宅の垣根の植物を
観察して写真を撮っている私は、不審者と見られては困るので、慎重にしずしずと
歩いている。
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先日、豊島区で見た高い塀から逃げ出したトマト・・・そのお宅なのだが、
塀の別の側からは、トケイソウの実が垂れ下がっていた。
過去ログ:【542】九月の末に
高いところに咲き終わった花がいくつか残っているようだが、花殻や実が道ばたに
落ちているものだから、Tamayamは好奇心を抑えきれず、また写真を撮ってしまった。
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よく調べてみるとこの種類は、クダモノトケイソウと言って食べられる種類のようだ。
それなら、なおさら、もったいないことと吝嗇なTamayamは思う。

このお宅の主はご老体で、だれかの手助けがないと高いところの植物の世話も
ままならないのかもしれないと考えたりもした。
(なにしろ、蔓草というのは、どんどん上の方へ上っていってしまうからなぁ~)
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この種のトケイソウは、どこかで見たと思ったら、9月に出かけた函館の熱帯植物館だった。
副花冠と呼ばれる部分がちりぢりに縮れていて変わった形をしていた。
もともとは、中央アメリカや南米の暑い地方のもの。この植物園は、湯川温泉の
熱を利用して熱帯植物を育てているのだ。
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上から見るとわからないが、横から見ると3本の雌蕊が時計の長針、短針、秒針の
ように見え、そこから時計の文字盤というイメージが生まれた。キリスト教国では
Passiflora、または、passion flowerと呼ばれる。情熱のpassionではなくて、
キリストの受難を表すpassionだ。
南米各地で宣教した宣教師は、中心の子房柱を十字架、
3本の雌蕊をキリストを磔(はりつけ)にした釘と見立てた。
副花冠は、キリストの頭の茨の冠というイメージで、福音を語り継いだらしい。

ふむふむ、それほどまでに、この花は、造形的に立体的で不思議な形をしている。
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閑話休題。
『文藝春秋』十月号の巻頭随筆に、渡辺 和子という方がエッセイを
書いていらっしゃる。この方は、カトリックの修道女なのだが、若いとき
修練院での修行中、百数十のお皿やコップをテーブルに並べる作業をしていたとき、
このような単純労働を機械的に、義務的に片づけていたら、修練長に叱られたという。

「あなたは、何を考えながら仕事をしているのですか?」
さらに、修練長が続けて言う。
「時間の使い方は、そのまま命の使い方なのですよ。同じ仕事をするなら、
やがて夕食の席につく一人ひとりのシスターのために祈りながら(皿を)並べて
いきなさい。」
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シスター渡辺は、当時を振り返ってこう言う。
「その席に座る一人ひとりのシスターに、『お幸せに』と祈ったからといって、その方が
幸せになったかどうかは、わからない。しかし、これは、自分の時間の使い方、私の人生
の問題なのだ。そう思って仕事をしていると、自分の顔から自然に仏頂面が消えていった。」
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私は、この方のことを全然知らなかったのだが、Webで調べると、85歳の
立派な経歴を持つ方で、今年4月に出版された著書『置かれた場所で咲きなさい』
(幻冬舎)は、9月末に21版を重ね、65万冊も売れているという。
それは、本離れの進んでいる現代においては、やはりすごいことなのだ。

本を読んでみると、何かむずかしいことを言っているのではないのだが、人生の深い真理について、
なるほどと考えさせられる。
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この方は、インドのマザー・テレサが来日したときに、アテンドや通訳をなさったようだ。
マザー・テレサは、炊き出しの食事を貧しい人に与えるシスターたちに、3つのことを実行するように
諭したという。

1.パンとスープを渡すとき、相手の目をみてほほえむこと。
2.相手の手に触れて、ぬくもりを伝えること。
3.短い言葉でいいから、言葉掛けをすること。


日々の仕事や作業に追われていると、重要なことが 抜けてしまうことがある。
作業の能率や結果ばかりに目をうばわれ・・・それが、何のために、
誰のためにやっているのかわからなくなってしまうのだ。

私も、この本を読んで以来、そうそう! とうなずきながら・・・ちょっとほほえんで
みたり、鏡を見て、自分の人相がすこしは改善されたか確かめたりしています。

この一年間に撮りためたトケイソウを載せてみました。園芸種も含めると500種以上にも上るそうです。
トケイソウ【時計草 トケイソウ科 Passiflora  caerulea】
by tamayam2 | 2012-10-14 00:14 | 日々のできごと
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