ひとつとなりの山

「ひとつとなりがいい。」
という文章から始まる池内 紀氏の新書。
出版されてから1か月ほどのできたてのほやほや。この池内節がなん
とも快いのだ。
その文は、さらに続く。

「人気のある山、よく知られた山のひとつとなり。
『日本百名山』などに入っていないお山。」


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ひとつとなりの山』
光文社新書 373
(2008年)

筆者は中年に
なってから、
そういう全国の
無名の山々を
登ってこられた。
グループではなく、
独りで、
自分のペースで歩く。





頂上をきわめるだけが目的ではない。
途中眼にする植物や樹木、小動物に関心を寄せ、風の音を聞き肌で
感じながら登っていく。その印象を、一歩一歩、地を踏みしめる
ような氏独自の言葉で語っている。
この方の言葉の使い方は、じつに味わい深い。
(ひそかに私の文章作法上の師と仰ぎ、氏のような
抑揚のきいた文章が書きたいものと常に思っている・・・・。)

近ごろ出かけた秋田県、乳頭温泉郷から見た乳頭山も、著書の三番目
に取り上げられていた。この本は、こんごの私の旅の方向性をきめる
大事な本になるかもしれない。
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初めて池内氏の本に触れたのは、
『ドイツ町から町へ』 中公新書1670 (2002年)
私がドイツに発つ直前に友人が贈ってくれた。
あとでゆっくり読もうと引越し荷物の中に含めた。
ドイツ文学者がドイツ国内の76の小さい町と地域を選びだし、
自分なりの思い入れを語る。

私の三年間の滞在中、できるだけ、自分の足でそれらの町々を
歩いてみたいと思い、訪ねた町にはチェック印をつけた。
76のうち36にチェックがついたから、約49%の達成率。
ほとんどが、池内氏と同様、週末を利用しての独り旅だった。
土曜の早朝に出て、日曜の夜に帰宅する一泊旅行。
ドイツでは週末には鉄道やホテル料金が安くなることもあり、日本に
比べてお金のかからない旅であった。
リュックに入れたこの本がガイド役をつとめてくれたのは言うまでもない。
列車を待つ駅のホームで、広場のベンチで、
いく度この筆者の文章力にうなったかわからない。

屈指のドイツ文学者、池内氏に案内されて路地の隅々まで歩くのだから、
これほど贅沢な旅はなかろう。
写真:Herrenberg 2007年3月
by tamayam2 | 2008-11-25 00:06 | 日々のできごと
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